最終報告書
プロジェクトタイトル: “ベトナムにおける、DAISYを通じた障害者の能力開発及び災害リスク軽減(DRR)のバリア削減“
プロジェクトタイトル: “Building capacities and removing barriers for people with disabilities (PWDs) in disaster risk reduction (DRR) through the digital accessible information system (DAISY) in Vietnam”
プロジェクト期間:2015年10月1日-2016年5月31日
ドナー: UPS/マルチーズ・インターナショナル(Malteser International、以下MI)の協力による
実施団体: Lift You Up Group/若い視覚障害者を対象としたハノイリハビリテーション・職業訓練センター
住所: 21B Lac Trung Street, Hai Ba Trung District, Hanoi, Vietnam
担当者: ダオ・トゥ・フオン(Lift You Up 設立者兼リーダー)
E-mail: tt.diem.tua@gmail.com
ファンページ: https://www.facebook.com/LiftYouUpCenter
電話: +84 988 675 985
2009年の調査によると、5才以上のベトナム人の実に600万人以上の人々、人口の7.8% が障害者と分類されています。しかし、世界保健機関のフレームワークに基づいた最近の統計によると、倍の15.3% の人々が該当するとされています。75% のベトナム人障害者は地方に暮らしています。彼らの識字率障害のない人に比べて大きく下回っています (それぞれ76.3% と95.2%とされている)。プリントディスアビリティとは近年言われだした専門用語で、視覚・認識・紙面上の墨字テキストへのアクセスに支障がある肢体障害の人たちなどがこれに分類されます。視覚障害者、精神障害者、注意欠陥・多動性障害、自閉症、ディスレクシア、肢体障害者(本を持ったり、ページをめくることができない人)、聴覚障害者、知的障害者、精神障害者(集中力障害等)、読み書きのできない人々、一時的なプリントディスアビリティの人々(旅行者を含む)、高齢者(小さい文字が読めない人)などが含まれます。現段階でベトナムにおいてこれらの障害のある人々の公的統計はありません。ですが、これらの定義によると、多数の人々が含まれるはずです。(注:プリントディスアビリティの定義については、報告者の英語をそのまま翻訳した)
これまでに、ベトナムにおいて、自然災害で被害を受けた障害者の数についてのデータはなく、地域に根ざした災害リスクマネジメント(CBDRM)に対して彼らが貢献できたこともありません。災害リスクマネジメントにおける障害者のメインストリーム化の最初の試みが、マルチーズ・インターナショナルにより実施されました。それは、障害インクルーシブ災害リスク軽減についてのパイロットプロジェクトとして、2012年4月に台風の被害を受けた、クアンナム省で実施されました。クアンナム障害者協会との協力のもと、46の村において障害者とその家族に対する訓練を実施し、それは地元における災害リスク軽減の進捗に積極的な貢献となりました。更に、障害者やその家族を支援するための地元のレスキューチームの設立、訓練、装備にもつながり、優先避難リストへの掲載にもつながりました。基本計画の見直しよりもむしろ、プロジェクトに参加した障害者は、彼らの属するコミュニティにおいて、より良い備えと安全のための災害リスクマネジメントに対して、彼ら自身の声をあげることや、積極的に貢献していくことに対してエンパワーメントされました。プロジェクトでは、ベトナムにおいて障害インクルーシブな災害リスク軽減(DIDRR)が着実に普及されるため、DIDRR マニュアルが編集されました。
DIDRRアジェンダの中で、クアンナム省においてMI、スイス赤十字、当事者団体パートナーによる調査が実施されました。予備調査において、障害者は情報の欠如と、災害から身を守るためのサポートの欠如について心配していることが明らかになりました。調査の中で、災害多発地の733 人の障害のある参加者のうち、 50% 以上が避難計画策定の方法や自己防衛について知らず、73%がコミュニティの緊急対策について知らない又は定かではないと回答し、約70% がDRMについての意思決定に含まれていないと回答した。(54%がそれを望んでいるにも関わらずです)調査では更に、障害者のための優先早期警報アシスタントがないということが判明しました。彼らとその家族は村のDRM委員会のメンバーではありません。この調査は、国連国際防災戦略事務所による世界規模的な取り組みとして、2013年末までに120カ国以上で実施されたデータ収集の1つです。これは、障害者がどのように災害時の状況に対応するかということについて調査した、最初の世界規模の調査となりました。それは、障害者が極度に脆弱な存在とされている状況であるにもかかわらず、彼ら自身の安全のための意思決定過程に少しだけアクセスできている、ということを暗示するものでした。
DAISYがベトナムに最初にやってきたのは、2005年のことです。DAISYコンソーシアム会長河村宏氏と、国連障害者権利委員のMonthian Buntan氏によるワークショップが開催されました。DAISY 製作研修は2006年3月に行われ、2名の視覚障害者を含む10名が受講しました。研修によってDAISY製作の基礎技術を得たとしても、ベトナムで製作活動を実施することはとても困難でした。DAISYの有益性についての啓蒙が不足しており、適切な配慮と資源も不足していたからです。
10年の時が経ち、ベトナムでのDAISY開発はとても良い状況にあると言えます。ベトナムのITマーケットは花開いており、3500万人が携帯を利用し、 (内1800万人はスマートフォン利用者)1610万人がパソコンを利用し、東南アジアにおいて最も活発なオンライン人口となっています。東南アジアにおいて、インターネット利用者数は第17位、インターネット普及率は第5位 (35.6%)です。さらに世界第8位の携帯電話加入者数を誇ります。 (2013年CIAワールドファクトブックによる)ベトナムにおいてプリント・ディスアビリティのあるパソコン利用者と携帯利用者を分けた調査がないにもかかわらず、これらの一般的な算出からは除外されていません。彼らのITリテラシーは著しく伸びており、ベトナムの当事者団体のIT研修における多大な貢献に感謝しなければなりません。優れた母国後のテキストトゥスピーチ(合成音声読み上げ)エンジンのない他の開発途上国においては、JawsやNVDAなどの有名なスクリーンリーダー がベトナム語で利用することができます。DAISYオープンソース再生ソフトの AMISもベトナム語に翻訳されました。さらに、様々なプラットフォームで利用できる(例えばWindows, Android, iOSなど)数多くのDAISY 再生・製作ソフトがオープンソースからダウンロードできます。特別なDAISY再生のハードウェアは必要ありません。これらのオペレーションシステムさえあれば、パソコンや入手可能なモバイルデバイスで本を読むことができるのです。
Lift You Up (以下、LYU)は、6人の若い視覚障害者による地域に根ざしたグループです。若い視覚障害者を対象としたハノイリハビリテーション・職業訓練センターの監督下で活動をしています。グループは2012年にハノイの障害のある学生のインクルーシブ教育支援のために設立されました。設立後、ダオ・トゥ・フオンは日本でダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業を修了しました。様々なボランティア活動ののち、MI、UPS、支援技術開発機構(以ATDO)との協力のもと、LYUは2014年5月に最初のプロジェクトプラン「ベトナムにおける、DAISYを通じた障害者の能力開発及び災害リスク軽減(DRR)のバリア削減」の開発に着手しました。このパイロットプロジェクトによって、LYUはDAISY技術をベトナムに持ち帰り、プリントディスアビリティのベトナムコミュニティに対してその有益性とアクセシビリティを証明してみせました。一方で、MIの DIDRR プロジェクトの1つとして、また障害当事者グループとして、LYUはCBDRMでのメインストリーム化のために積極的参加をして貢献します。今後の展望ですが、MIのDIDRRマニュアルの変換が、LYU がベトナムにおけるDAISY製作のフォーカルポイントになる最初のステップになります。そして、インクルーシブ教育支援におけるDAISY教科書製作に組み込まれることになります。
このプロジェクトはプリントディスアビリティのある人の地域に根ざしたDRR活動への積極的な参加を高めることを狙いとしています。DAISYフォーマットのアクセシブルなDIDRRマニュアルによって、これらの人々は自己防衛のためのDRRの基本的な知識を得たり、家族やコミュニティメンバーからの適切な支援の動員、そしてコミュニティにおけるDRR活動への積極的な貢献が可能になります。この究極的な目標を達成するため、以下の通り目標を掲げます:
上記に掲げた目標を達成するための活動は以下の通りです:
2015年10月1日から2016年1月12日まで、全ての関係者がプロジェクト実施のための事務業務を完了しました。MIによって、テーブル・椅子・ロッカー・録音ブース・ノートパソコン・重要なDAISY再生と製作ソフト等の設備が購入され、LYU事務所に設置されました。
2016年1月12日に、公式のプロジェクト実施ワークショップが開催され、ハノイの障害者支援団体及び当事者団体の代表ら35名が出席しました。 ワークショップでの演説で、ATDO副理事長の河村宏氏はDAISYの紹介と、ベトナムにおけるDAISY開発の見通しについての楽天的な考えについてプレゼンを行いました。その後、プロジェクトマネージャーのMai Thi Dung女史が、DAISYの技術がどうやってDICBDRMに適用されるか、写真で示しました。全ての参加者がDDR事業における自信と、DAISYの適用についての、MIとLYUとATDOのイニシアチブに感謝と支援の思いを寄せました。
DAISY基礎製作研修コースは、ワークショップが実施された後、1月12日の午後より開始しました。 10日間に渡り、5名のLYUのメンバーは、DAISYのコンセプト、開発の経緯、墨字やオーディオ本と比較し有利な点、DAISY再生の鍵となる技術、AMIS・Dolphin Easy Reader・Tobi・Obi・マイクロソフトワードのSave as DAISY等の無料ソフト及び市販ソフトを使ったフルテキスト及びフルオーディオのDAISY製作などについて、ATDOのハマダ・マユ氏とマルイチ・ゴウ氏の指導を受けました。研修は理論と実践が非常にバランスよく実施されました。コースの最後には、全ての研修生がそれらの技術をマスターし、英語マニュアルの最初の章の製作に用いることができました。そして、次の製作ステージのための重要な指針となる、DICEDRMの英語バージョンの詳細な製作プランの合意に至りました。
基礎研修終了後すぐに、得た技術を使ってDICBDRM マニュアルを実際に製作するという機会を得られたことは、LYUメンバーにとって幸運でした。2016年3月28日までに、LYUは英語とベトナム語基礎テキストを完成させました。製作の段階でいくつかの技術的な問題があり、それらは解決することができませんでした。LYUはそれらの問題について、フォローアップ研修でATDOの専門家たちと議論するまで解決を待たなければなりませんでした。3月28日から30日まで行われたフォローアップ研修において、LYUメンバーは、ハマダマユ氏から、最初の製作ステージにおいて残されていた技術的な問題を解決するための実地研修を受けました。そして、2つのテキストトゥスピーチによる英語バージョンを完成させました。前回の研修と異なる点は、前回は主に参加者はトレーナーから学ぶという形でしたが、フォローアップ研修では参加者が彼ら自身の経験や製作においての失敗などからの学びが多かった点です。そして、トレーナーとより緊密に作業し、結合したテーブルや、セルの分割といった、DAISYブックの複雑な問題について解決方法を考案することができました。コース終了時には、DAISYブック編集や、Dolphin Publisherの録音、テキストトゥスピーチによる英語バージョン、そしてベトナム語のテキストなどの上級技術を身につけることができました。
プロジェクトの最終段階において、(4月1日から5月31日)LYUはベトナム語バージョンの人間の声の録音を完了しました。(現在良質なベトナム語のテキストトゥスピーチが利用できないため)そして、両バージョンにおいて残されていた技術的な問題について触れ、DAISY製作について完了させました。
LYUのDAISY製作期間中には月に1度グループミーティングが開催され、経験・課題及びその解決についてのディスカッションが定期的に行われました。同時に、ATDOより、オンラインとオンサイト(現場)での熱心かつ効果的なサポートをいつでも受けることができました。彼らの継続した支援がなければ、DAISY技術領域において初めての経験でしたので、LYUはその製作目標を達成することができなかったでしょう。
LYUは現地NGOとして法的に登録されていないので、このプロジェクトをMIから請け負うためのハノイの諸機関とのペーパーワークは複雑なものになりました。幸運にも、若い視覚障害者を対象としたハノイリハビリテーション・職業訓練センターより熱心かつ効果的な支援を受けることができました。登録手続きについては今後学ぶこととします。来年末には現地NGOとして登録されることを希望しています。加えて、小さな団体なので事務や会計スタッフ不足により、MIからの膨大な事務書類の要求を満たすことは難しかったです。
全体的な評価として、プロジェクトは目標を達成しました。
このプロジェクトはLYUがベトナムにおいてDAISY技術を拡大するための新しい機会を開くと共に、インクルーシブ教育に対するより良いサポートを実施することにつながりました。
2016年6月12日
報告者:ダオ・トゥ・フオン/Lift You Up リーダー