日本での10ヶ月の研修報告
日本におけるダスキンリーダーシップ研修は私にとって海外での初めての研修でした。この研修によって、私はたくさんの新しい経験をし、知識やスキルも身につけることができました。この研修を受けてから、前よりも良い考え方ができるようになり、自分に対してもより自信が持てるようになりました。10ヶ月を共に過ごしたのは、アジア太平洋地区のさまざまな国からやってきて、さまざまな障害のある他の研修生、そして日本で会った人たちです。日本の暮らしに慣れ親しみ、日本人の生活や慣習、仕事などについて知ることとなりました。下記に、この日本での10ヶ月の体験について記そうと思います。
2011年の8月、日本に降り立った私はとてもワクワクしていました。関西空港に最後に到着したのが私で、他の研修生と、日本障害者リハビリテーション協会のスタッフの皆さんと会いました。大阪のダスキン本社での開講式の後、私たちは東京に向かい、戸山サンライズでの日本語の研修が始まりました。
日本語の授業は9月5日から始まり3ヶ月にわたって行われました。先生は全部で8人で、それぞれ違う方法で、わかりやすく教えてくださいました。どの先生も経験豊富で、私たちが授業をおもしろく楽しく受けられるよう工夫してくださいました。このため授業はいつも楽しく、教室は笑いで溢れていました。ゲーム方式の授業もあり、とても楽しかったです。こうして研修生全員が、ほどなくして日本語を話せるようになりました。
午前の授業はグループレッスンで、日本語の会話だけで行なうことが多かったです。午後はベトナムからの研修生と組んで日本語の点字を勉強しました。タジキスタンでも日本語の点字のアルファベットを知っていたのですが、当時はまったく理解できませんでした。タジク語、ロシア語、英語の点字に比べ、はるかに難しく思えました。しかし日本に来て先生に日本語点字のルールを教わると覚えるのが楽になり、ほどなくして日本語の点字の読み書きもできるようになりました。
日本語能力試験に受かったあとは、日本の障害者運動についての講義を二週間受講し、国立障害者リハビリテーションセンターやピア・カウンセリングを行なっているヒューマンケア協会を訪ね、障害者の人たちがさまざまな学業や活動に身を投じている様子を見学しました。
5ヶ月にわたる個人研修では、視覚障害者向けの教育について多くのことを教わりました。私の目的は教師になることですが、最初と最後の個別研修はそれぞれ神奈川県立平塚盲学校と筑波付属盲学校で受けました。タジキスタンの盲学校に比べ、日本の盲学校は先を行っています。教材もじゅうぶんに用意されており、点字の教材も模型もそろっています。すべての科目の勉強に必要な資料・教材が揃っているので、じゅうぶんに学ぶことができます。簡単な例を挙げれば、タジキスタンの盲学校には、学生が必要とする点字用紙も、点字の教材も模型もじゅうぶんにありません。私が教師になったときには、持てる力をすべて発揮して視覚障害者に必要な教材を取りそろえたいと思っています。
"DAISY:The Best to Read, The Best to Publish"(「読み取りにベスト、出版にベストのツール」)
特定非営利活動法人支援技術開発機構(ATDO)を訪れたとき最初に目に入ったのが上記のスローガンでした。それから一ヶ月ほど、DAISYの勉強をしました。以前にもDAISYについて聞いたことはあったのですが、システムがどうなっているのかはまったく知りませんでした。しかしDAISYを学んでみて、ほかの形式に比べて視覚障害者がアクセスしやすく、本を読んだりほかの情報を得たりするのに非常に優れていることが分かりました。
DAISYの勉強はまさに私が必要としていた研修です。タジキスタンにはDAISYで作成されたデジタル図書がまったくないからです。タジキスタンに帰り、母国にDAISYのシステムを導入するのは私の責任であると思っています。そうなれば視覚障害のある大学生も教科書を読めるようになりますし、また小説や古典文学にも手に取ることができるようになります。
現在は多くの国で、政府が障害者のためのインクルーシブ教育を計画しています。先進諸国では、教育省庁がインクルーシブ教育を法制化しており、多くの児童が通常学級で障害のない児童とともに教育を受けています。2010年に、タジキスタンの首相も同国の障害者を対象にしたインクルーシブ教育を法制化することに署名しました。しかし現状においては、インクルーシブ教育を提供する準備がまだ社会に整っていません。ほかの国と違い、情報サポートセンターもありませんし、必要な施設もじゅうぶんに揃っていません。点字図書を出版する設備もありません。大阪では日本ライトハウスを3週間訪問し、視覚障害者のためのインクルーシブ教育を実現するには何が必要かを理解することができました。点字の図書や資料の作成、DAISYによる図書の編集、対面朗読、点字図書館、視覚障害を持つ生徒が勉強できるよう各学校との連絡調整、日々の生活のためのリハビリテーションコースの準備、コンピュータ技能、スポーツ ― これらはすべてインクルーシブ教育に必要です。しかし、日本ライトハウスでもっとも驚いたことのひとつは、ボランティアによる活動でした。現在日本ライトハウスには650人ほどのボランティアがおり、自分の時間を使って無償で働き、視覚障害の人たちの支援に当たっているのです。
京都で立命館大学を訪ねたときは、ある部屋に案内され、その部屋にはCCTV、点字用プリンター・コンピューター、そのほか視覚障害のある学生が自由に使える設備が整っていました。このような部屋をタジキスタンでも作るにはどうしたらよいだろうと考えるきっかけになり、今は、タジキスタンで視覚障害のある大学生が使えるサポートセンターの創立を考えています。
日本ライトハウスでの研修では、初めて盲導犬と歩く経験をし、非常に驚かされるとともに、嬉しい気持ちにもなりました。素晴らしい3週間の研修でした。また、小学校も訪問しました。この小学校には2年生に視覚障害の児童がおり、障害のないほかの児童といっしょに勉強し、先生とも語り合っていました。
光友会では2週間の研修を受け、さまざまな仕事に就いている、さまざまな障害のある人たちに会いました。また、多くのスポーツ・リハビリテーション・福祉センターを訪ね、それぞれの活動を見学しました。スポーツセンターではサウンドテーブルテニスを初めて体験し、大変おもしろかったです。母国に戻ったら、タジキスタンにもサウンドテーブルテニスを導入したいと思います。
日本に来る前の私はまったくコンピュータが使えませんでした。PC研修では、ワード、エクセル、パワーポイントのほか、日本語の画面リーダー「PC Talker」を使ってウェブサイトの作り方を覚えました。PC Talkerの音声は大変クリアでした。また、以前はインターネットを使って検索することもできなかったのですが、今ではインターネットを駆使できるようになりました。
この研修のもっとも良い点のひとつとして、研修が勉強一筋でないことが挙げられると思います。勉強のほかにも、水泳教室やホームステイ、スキー研修などさまざまな楽しいプログラムが用意されています。
ホームステイでは福岡県の田丸さんのお宅にお邪魔し、新年を一緒に過ごすという忘れられない経験をしました。田丸さんご一家と毎日福岡県のさまざまな場所を訪ね歩き、有名な場所に行ってみたり、美しいフラワーパークを訪ねたり、田丸さんのご友人のお宅を訪ねてたくさんの日本の人に会ったりしました。日本の人の生活についてのほとんどは、この福岡での一週間、および神戸と京都でのホームステイで学ばせていただいた気がします。
ほかに素晴らしかった、忘れられない思い出としてスキー研修があります。新潟において生まれて初めて本格的にスキーをすることになり、実におもしろく楽しい経験でした。何といっても素晴らしい点は、障害者もスキーができることです。先生はマイクを使ってどうやってスキー板を滑らせコントロールするかを教えてくださり、私は先生の後をついて滑りました。最初はちょっと難しく思いましたが、ほどなくして自由にスキーを操れるようになりました。2日間で8回ほど転びましたが、それでも楽しかったです。というわけでスキーにおいても経験を積む結果となりました。
日本に来る前、盲学校で約半年間、教育実習を行いました。帰国後は、盲学校の先生になりたいです。盲学校の現況は大変ですから、ほかの先生と協力して、スポーツ大会を実施したり、視覚障害のある学生に適した教材や教科書、模型などを作ったりしたいです。現在、タジキスタンでは、点字の教科書が十分にあるのは小学校だけです。中学校と高校学校では教科書が不足していますから、そのためのプロジェクトを作りたいです。近年、タジキスタンでも視覚障害のある大学生がどんどん増えています。私が大学生のころ、大学や政府からのサポートはほとんど得られず、授業を受けるのには多くの困難がありました。ですから、障害学生のためのサポートセンターを設立したいです。また、盲学校から駅まで、そして盲学校内などに、点字ブロックを敷設する予定です。
ダスキンの研修で、私に必要だった貴重な多くの知識を身に付け、自分の考え方を変えることができました。今では、「変わることは可能なのだ。力をつけることで、責任も生まれる」とはっきり言うことができます。本当にありがとうございました。