Duskin Leadership Training in Japan

最終レポート

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カォクン・タンティピシックンのファイナルレポート

これが私の進む道

はじめに

私の名前はカォクン・タンティピシックンです。友人は、私をニックネームの、「ルー」と呼びます。私は生まれたときから両耳が聞こえませんでした。しかし健聴者の世界で育ったので、家族や健聴者の友人たちとは読話および残存聴力を利用して会話することができました。このため、後にろうのコミュニティに参加するようになるまでは、自分の周りの世界について考えることがありませんでした。ろうのコミュニティに参加して初めて、社会には、存在すべきでない不平等が厳然としてあり、もっと社会が発展していかなければならないことが分かりました。時間はあっという間に過ぎていきました。私の世界もだんだん広がり、自分のやりたいことも明確になってきて、さまざまな人がもっと暮らしやすくなるように貢献したいとはっきり思うようになりました。勉強は止めませんでした。もっと知識を身につけなければ物事を始め、実現させることができない。そう考えたため、日本では三つのことを学びたいと思うに至りました。後に日本で学んだことをタイに応用したいからです。この三つとは以下のとおりです。

  1. 交渉のスキル
  2. 情報へのアクセシビリティ
  3. 日本の人たちの考え方、行動パターン
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日本語と日本手話の勉強

日本では3か月、日本語と日本手話を教わりましたが、素晴らしい体験であったのは無論のこと、日々の生活に大変役立ちました。日本語も日本手話も、日本で物事を学び、知識にアクセスしたいと思ったら避けて通れません。あるとき周囲を見回して、目に入った漢字の意味が分かったこと、そして旅先で新しい言葉が分かったときなどは本当に嬉しかったです。日本手話と日本語の勉強なしには、知識にアクセスするどころか大した知識も得られなかったと思います。日本手話および日本語の先生方に感謝の気持ちでいっぱいです。本当に有難いです。

ホームステイ

ホームステイのプログラムでは、北海道で二軒のご家族のところにホームステイさせていただき大変素晴らしい時を過ごしました。ご家族はとても優しく親切でした。手話を使ってたくさんコミュニケーションしました。ホームステイを通じて、日本の手話は地域によって違いがあることを知りました。日本に来てすぐの三か月で学んだ手話とは違いがありました。新しい手話は大変興味深く、習うのがおもしろかったです。北海道では実にさまざまな体験をしました。とくに思い出深いのは、温泉に行って雪を見たことです。ホームステイのご家族に感謝したいと思います。毎日を楽しく過ごさせていただき、お正月も一生忘れ得ない、温かい思い出となりました。

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スキー研修

スキーは日本に来て初めて習いました。最初はとても体が痛かったです。あとになって、先生たちが、スキーしている最中の姿勢を正すように教えてくださいました。そうした基礎知識を身につけたあとは、だんだんスキーがうまくなり、滑らかに滑れるようになってきました。研修で学んだスキルを身につけるにしても、そのほかのどのようなことにも、知識が重要です。良い先生からしっかりした基礎知識を学ぶことも、スキル習得にとても重要です。

個別研修

交渉能力:

今回の研修の目的の一つは、政府との交渉能力について学ぶことでした。研修の中では、実際に政府との交渉経験があるろうのリーダーやアカデミックな知識のあるろうの人々に話を聞くことができました。皆さんに共通していたのは、ゆるぎない信念、勇気、情報、そしていろいろな人を巻き込んで物事を進めていく力でした。

情報へのアクセシビリティ:

日本では、リアルタイムで手話通訳や字幕がついているテレビ番組が放送されています。また、手話ニュースもあり、大変興味深かったです。個人的にも、ニュースが分かりましたし、日本語を勉強する良い機会になりました。

日本では手話通訳者のさまざまな分野への派遣が認められています。たとえば、結婚式や大学の行事などの個人的なイベントにも手話通訳を呼ぶことができるのです。

手話通訳の養成や試験は故郷のタイにも導入できます。日本の研修では、どのように手話通訳者が養成されるのかがより良く理解できるようになりました。また、視覚や触覚によって注意を促す仕組みはとても便利です。たとえば、赤ちゃんが家で泣いていたとします。保護者は、持っているデバイスが振動すれば、緊急事態であることがわかります。ろうを始めとする聴覚障害者に向いたサービスです。タイにこういうサービスはありません。タイにも導入して、どれだけ便利であるかをいろんな人に知らせたいです。

筑波技術大学での講義は大変印象深いものでした。生まれて初めて、手話だけを使って講義をするろうの先生を目の当たりにしました。講義は大変素晴らしく、視覚によるコミュニケーション(手話)でしっかり指導しておられました。

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暮らし:

日本では、高齢者支援や聴覚障がい者、ろう者の就労支援のちゃんとした環境が整っています。高齢者の人や、支援する施設で働く人たちと話をするチャンスがありましたが、この情報を友人たちにも伝え、自国でどのように活かしていけるのか考えて、次の一歩を踏み出したいと思います。

日本にはろうの子どもたちのためのデイケアサービスがあります。必要なサービスですし、働いている親の助けになります。親が仕事に行っている間、子どもたちは手話を勉強できるので良いサービスです。

明晴学園には感銘を受けました。この学校では手話をベースに、手話と口話を両方使っています。子どもたちはとてもおしゃべり好きで、活発で、堂々と自分たちの意見を言っていました。将来、この子たちはきっと自分の感情や理屈をきちんと表現できるだろうなと思いました。

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タイへの帰国

ろう者や聴覚障がい者の世界に足を踏み入れた瞬間に、私は進みたいと思う方向がはっきりしました。最初から、これが自分の進むべき道だとはっきり分かりました。それから、当時の抱負を絶対に忘れないようにしようと胸に誓いました。日本では、さまざまな経験をする機会を与えていただき、さまざまなことを学んだほか、日本とタイという二つの国を比較することができました。日本とタイでは、抱える問題や解決方法も違うかもしれません。しかし、日本で学んだ見識を応用して、タイで活かしたいと思います。身につけた経験、研修の成果、学んだことを武器に、現在タイが抱える問題を解決し、バリアフリー社会を実現させたいと思います。このような学びや知識、体験のおかげでいろいろなアイディアも浮かぶようになりました。最後になりましたが、チームワークなしでは、何事も前に進めることができません。このため、以下のような手順を踏みたいと思っています。

まず、日本で得た経験やアイディアを友人たちおよび所属機関に伝え、将来の事業の方向について考えたいと思います。

次にこの事業を実施し、ろうを始めとする聴覚障がい者の暮らしの支援をしたいと思います。ろう者ほか聴覚障がい者に向けた情報やコミュニケーションにアクセスできるセンターを設立し、日々の生活のサポートをしたいと思います。

三番目に、手話および国際手話の啓発活動をし、ろう者を支援したいと思います。

日本での体験がどれだけ自分にとって価値あるものになったかは言葉では到底言い表せません。自分自身についても前よりよく分かるようになり、心ある人たちと、意味のあるつながりを持つことができました。お互いを支え合いながら、一人ひとりの素質と才能をもって、世界をより良い場所にしていきたいと思います。

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謝辞

ダスキン愛の輪基金、ダスキン・ファミリー、日本障害者リハビリテーション協会の皆さんに、私を支援し、励まして下さったこと、また、日本の文化に関する知識を含め、さまざまな知識を身につけられるようにして下さったことを心から感謝します。また最後に、先生方、数々の友人、そして日本の皆さんに感謝の言葉を表したいと思います。皆さんが温かく迎えてくださったおかげで、日本での研修中ずっと、幸せいっぱいの気持ちで過ごすことができましたことを、お礼申し上げます。

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