共生社会実現のために!!
私は台湾出身の蘇楠(ソ・ナン)と申します。平成3年に台北市で生まれました。生まれつきの脳性麻痺があるので、外出時には常に車いすを利用しています。来日前、私は障害学生支援コーディネーターとして新北市・明志科技大学の学生カウンセリングセンターに勤めていました。仕事以外では、社団法人台湾障害者権益促進会という障害当事者団体で活動しています。
台湾は多様性のある高度産業社会ですが、障害福祉は発展途上にあり、まだ多くの課題が残っております。わが国における障害福祉の改善を目指し、私は日本の障害者福祉の現状を学ぶために来日しました。それ以外にも、日本語や日本人のマナーを学ぶこと、日本の障害者・障害者団体と交流すること、そして日本での生活・文化体験も研修の目的でした。
平成30年10月から令和元年5月まで、私は研修で日本各地の障害者施設・団体を巡り、様々な活動を体験できました。詳細は以下の通りです。
自国で現地在住の日本人とランゲージエクスチェンジ(お互いの母国語を教え合うこと)をしていたので、私は来日時既に日常の意思疎通には困らない程度の日本語を身につけていました。そのため、平成30年10月から12月まで、私は1対1プライベートレッスンやOJT(現任研修)で日本語研修を受けました。プライベートレッスンでは、私はビジネス会話、文章読解、ロールプレイ、口頭発表等の授業を受けました。それ以外の時間に私はリハ協でOJTを受け、他の研修生の日本語研修の様子を取材してブログ記事としてまとめたり、JDFパラレルレポート特別委員会の準備作業をお手伝いしたりして、リハ協の業務補佐を通じて日本語やビジネスマナーを磨いてきました。
平成30年10月に私は名古屋のAJU自立の家に伺い、「完全参加と平等」をテーマにして障害の有無に関わらず誰でも参加できる「ハンディマラソン」に参加させて頂きました。ハンディマラソンは私にとってスポーツ大会の初挑戦であり、共生社会に向けた活動の取り組みを学ぶ機会でもありました。
平成30年12月末に私はホームステイで京都の大藪家を訪れました。家族の皆様と一緒にお餅つきしたり、京都の金閣寺や奈良の東大寺などの観光名所を巡ったりして、楽しく年末年始を過ごして日本文化を体験することができました。
平成31年1月に私は茨城県にある自立生活センター「ほにゃら」と「いろは」で1ヶ月弱の個別研修を受けて初めて「自立生活」という新しい価値観と出会いました。私はバリアフリー設備付きの自立生活体験室で一人暮らしして、実際に重度身体障害者のお宅を訪問したり、障害当事者や介助者と共に障害者の住める部屋を探したり、バリアフリーチェックしたり、DET(障害平等研修)で「障害」と「誰でも住みやすい街」のあり方を考えたりして、重い障害を持っていても普通に地域で暮らして自立できるということを実際に自分の目で確かめました。
平成31年1月末に私は新潟の「障がい者スキースクール・ネージュ」でスキー研修を受けました。身体障害のある私は最初、スキーはさすがに無理かなと思い込んでいましたが、ネージュから研修生全員それぞれの障害に合わせた配慮をしていただき、「バイスキー」の形でスキーを体験することができ、「アダプティブスポーツ等合理的配慮があれば、障害を抱えてもできないわけではない」ということが身に染みて分かるようになりました。
平成31年2月に私は東京のDPI日本会議で1週間の個別研修を受けて日本の障害当事者による相談支援と権利擁護活動を学びました。DPIの「権利擁護センター」と「女性ネットワーク」の取り組みを勉強しながら私は障害当事者の自分史をお聞きして、実例を通じて日本におけるバリアフリーと障害者権利の現状や課題を学んできました。
平成31年2月から3月まで、私は東京にある自立生活センター「ヒューマンケア協会」、「CIL日野」と「全国自立生活センター協議会」で1ヶ月の個別研修を受けて障害者の自立生活をさらに学びました。昔の私は社会の固定概念にとらわれ、「自立生活」とは誰にも頼らずに生きることと思い込んでいました。しかし、ヒューマンケア協会で日本の障害者自立生活運動の先駆者である中西さんと他の先輩方にお話を拝聴し、実際に各障害者団体と共に行政交渉を見学して、私の考え方も変わっていきました。障害者にとっての自立生活は「自己選択」(自分の生活は自分で選ぶ)、「自己決定」(自分の生活は自分で決める)、「自己責任」(自分がした選択と決定は、自分が責任を取る)というのを学んで、従来の思い込みが覆りました。障害者の自立生活を支える介助制度とピアサポート(ピアによる相談支援)を学びながら、私はILP(自立生活プログラム)で介助サービスを使って料理づくりやホームパーティに挑戦してみたり、ピアカウンセリングを勉強して実際にグループを率いてみたりして、障害者同士がどのように支え合うのかを実践を通して学んできました。
平成31年3月から4月まで、私は兵庫の自立生活センター「メインストリーム協会」、大阪の「自立生活夢宙センター」と「CILぱあとなぁ」を巡り、1ヶ月の個別研修で障害者の自立生活を実体験を通して学びました。関西のセンターでは、他の研修先に比べて仲間同士と触れ合う機会が段違いに増えて、一緒に遊びに出かけたり、料理を作ったり、家に泊まったり、夜更かししてお酒を飲みながら本音を語り合ったりして、障害のある仲間同士と色鮮やかな思い出を作りました。みんなと共に過ごした平凡にして非凡なる日常で、私は障害者の自立生活の楽しさと尊さを実感し、自立生活センターの運営と当事者にとっての居場所づくりを学んできました。
私は研修中に日本における障害者福祉の現状と障害者の生活の実態を自分の目で確かめることができました。日本ではたとえ重度障害者でも、自立生活制度や様々な合理的配慮により普通に地域で一人暮らしをして、健常者より多彩な生活を送ることができます。そして、日本の障害者は一方的に他人に助けられるばかりでなく、当事者スタッフとして自立生活センターで様々な支援活動を行い、他人を助けたり社会に貢献したりする存在であります。障害者は、実は想像以上に可能性を秘めているということに、非常に感銘を受けました。
日本で学ばせていただいたことを糧に、私は帰国後、自国の障害者福祉を向上させるために、「どんな障害や生きづらさを抱えていても、普通に地域で尊厳ある生活を過ごせる共生社会を実現する」という夢を目指します。この夢に向かって、私は帰国後、まず日本で学んだことを現地社会に発信します。そして、当事者団体での活動を続けて、障害のある仲間一人ひとりに寄り添って支援します。現地のCILと連携・協働して共に運動し、当事者ネットワークを広げて一緒に運動する若手を増やすことも目指します。最後に、また大学の障害学生支援室に就職し、障害学生の自立に向けた支援を現場でも始めたいと思います。
私ひとりで見る夢はただの夢ですが、障害者同士と社会の人々を巻き込んでみんなで一緒に見る夢は、きっと現実になると信じております。
ダスキン愛の輪基金の皆様、日本障害者リハビリテーション協会の皆様、そして各研修先の方々に大変お世話になり、誠にありがとうございました。心より御礼申し上げます。