モルディブろう協会のエンパワメントと強化に向けたビジョン
私の名前はアーワン・ムハンマドです。第21期ダスキン研修の研修生です。出身地はモルディブです。ダスキン研修については、2018年に、同研修にモルティブから研修生として参加していたディナさんから話を聞いて知っていました。私はモルディブろう協会(MDA)に関わっていますが、協会にさまざまな問題があるので、この機会に研修に応募し、日本で知識や経験を得てどうしたらモルディブろう協会の機能や活動を改善できるのか知りたいと考えました。研修では4つ、学びたいと思っていたことがありました。1)ろう者のための運営と活動について。2)手話通訳者の育成について。3)ろう者および手話に対する意識向上活動について。4)日本のろう協会や組織の見学、この4つです。
モルディブはインド洋に浮かぶ島国で、人口はわずか40万人ほどです。モルディブには1,190もの島があります。全土のろう者・聴覚障害者は1,287人です。首都のマレに手話通訳者は3人しかいません。他の島で人が居住しているところに手話通訳者はまったくいません。聴覚障害者は手話通訳者がいないことで大変苦労しています。モルディブには手話通訳者が勉強を進め他の国で手話通訳者がどのように活動しているかを見る機会もないのです。また、ろうの人たちが居住する諸島にはろう協会もありません。唯一協会があるのが首都マレです。他の島では手話通訳者がいないため、ろう者はまったく情報にアクセスできないのです。ろうの人たちが住む島の多くでは手話で教えてもらうことができないので、モルディブの言語であるディベヒ語や英語をまったく読めません。また首都で使われている手話はこうした島の人たちが使っている手話とは違うのです。首都では一般的な、標準的な手話が使われるのに対し、他の島はそうではありません。場所によって使う手話が違うため、ろう者のコミュニティの中ですらコミュニケーションが成り立たないのが現状です。
日本に到着して最初の3か月は、日本手話(JSL)と日本語(ひらがな、カタカナ、漢字)を勉強しました。ひらがなやカタカナはわかるようになりましたが、漢字の理解はとても難しかったです。日本語の読み書きには集中して取り組みました。日本手話は大変興味深かったです。日本手話及び日本語を指導してくださった先生方には大変感謝しています。
グループ研修の一環として、リーダーシップ研修がありました。カバーされている分野はさまざまでした。いろいろ違う障害のある障害者との関わり方、について学びました。リーダーシップ研修ではさまざまなスキルを学ぶことができ、一番興味深いプログラムとなりました。モルディブでもろうコミュニティのために同様のプログラムを立ち上げて、ろう者が知識を身につけることができるように、またろう者の基本的な権利擁護のために活動したいと思います。
12月には岩手でホームステイを経験しましたが、とても楽しいひと時となりました。雪を見たのは生まれて初めてで、とても嬉しかったです。お世話になったご家族はろうのご両親と、健聴者の娘さんでした。お互い手話でいろいろ会話を楽しみました。滞在中は岩手の美しい場所に連れていっていただきました。ホストファミリーの同僚の方にもお会いしましたが、大変親切で、またとてもフレンドリーでお互いを助け合う関係でした。私の人生で最も素晴らしかった経験の一つとなりました。
ここではプレゼンテーションのスキルを学び始めました。ろうコミュニティやモルディブの文化に即したプレゼンテーションテクニックについても学びました。モルディブで公衆を前にプレゼンをしたことがなかったので、当初はプレゼンで情報を説明することを難しく思いましたが、何度も何度も練習しました。自分の暮らしやモルディブの文化、モルディブのろう協会についてのスライドを作り1時間ほどのプレゼンとなりました。初めてプレゼンをすることにとてもワクワクしました。プレゼンのテクニックを教えてくださった久美子先生に感謝いたします。
沖縄ではモルディブと同様に、島に暮らすろうの人たちがいました。ろうの人たちが手話通訳を必要なときは、那覇から諸島にろうのスタッフや手話通訳者が派遣される仕組みになっていました。また、他の島に住むろうの人たちにも必要な情報が提供されるようになっていました。電話リレーサービスも見学しました。都市部か島しょ部かにかかわらずろうの人がビデオ通話をしたい場合は、電話リレーサービスセンターにいる手話通訳者を通じてビデオ電話ができるようになっているのです。また、センターからの手話通訳者派遣も見学しました。ろう者と健聴者の間のバリアを埋める大変重要なサービスであるという印象を持ちました。この経験から、モルディブの島々でも同様のサービスを立ち上げたいと思いました。
鳥取聴覚障害者協会では、事務局長の石橋さんにお会いしました。ろう運動の歴史を大変興味深く伺いました。「ろうの運動が夢を作る」がモットーであると教わりました。非常に感銘を受けました。石橋さんはさらにリーダーとしての資質について、またどうやってリーダーシップ能力を育成していくのかについて教えてくださいました。ご自身の経験を話してくださったのは大変有難かったです。ろうあ者相談員(ろうカウンセラー)やろう者のイベントについても知りました。同様の活動をモルディブのろう協会でも立ち上げたいと思いました。
兵庫県聴覚障害者協会にはいろいろな部門があり、高齢部、女性部、青年部、スポーツ部などがありました。女性部やスポーツ部の活動について学ぶことができました。モルディブのろう協会でも女性部、青年部、スポーツ部を立ち上げられたらと考えました。子育て、結婚や家族関係などの課題を解決し、ろうの女性の権利擁護をするために女性部は重要です。女性部に参加すれば女性たちは安心できる環境でいろいろ情報交換し、知識や社会生活についてのノウハウを身につけるためのセッションに参加したりできます。これ以外に、全国手話研修センターの日本手話研究所についても学びました。ここでは手話の研究を進め、すべての県に対し新しい単語が出てきたら通知して、手話を作成します。議論を重ね、すべての協会の意見を取りまとめます。ある単語についての手話ができたら、動画にして説明し、選出されたチームの監督のもとにウェブサイトで発表されます。それを見て関係者が全てコメントをし、そこでやっと新しい手話が決定されます。決定されて初めて、新しい手話を入れた本が出版となります。モルディブでもそれぞれの島で手話チームがこういうことができるようにしたいと思いました。また、ろう者に対する基本的な手話の教え方や、手話の動画を健聴者のトレーナーが読み書きしてろうの人に意思疎通の方法を教えるやり方も学びました。私も新しい手話トレーニングの教本を作って手話を学びたい人に伝えたいです。
帰国後、私はモルディブろう協会のために下記の4つのことを達成したいと考えています。
1. 協会の運営と活動の改善。3つの島で新しい協会を立ち上げ、女性部、青年部、高齢部を作りたいと考えています。ろうの人たちが集まって一緒にプログラムに参加し、知識を向上させて自分たちをエンパワーできるようにしたいと考えています。
2. モルディブの手話の向上。モルディブの手話を分析し、発展させ、より多くの表現を網羅した新しい手話辞典を作りたいです。それぞれの島の言語の手話を研究し、すべてのろうの人たちが地元の手話を学べるようにしたいと考えています。
3.手話通訳者の育成。ろうの人たちは生活のいろいろな局面で手話通訳を必要としているので、手話通訳者を増やし、スキルも伸長させたいと思います
4. コミュニティの権利擁護・情報提供。社会の意識向上を目指し、障害者の権利擁護、手話への意識向上に向けて活動したいです。とくに、ろう者がさまざまな障壁を克服し新しい「ニュー・ノーマル」を確立できるよう励ましていきたいです。また、全土で手話を通じてニュースやメディアへのアクセスが可能になるようにしたいと考えています。
ダスキン愛の輪基金および日本障害者リハビリテーション協会の皆様に御礼を申し上げたいと思います。研修の間支えてくださった皆さんのことは生涯忘れません。モルティブでも日本で研修を通じ学んだことを活かし、ろうのコミュニティの発展に努めたいと思います。「ろう運動が夢を作る」というスローガン、忘れません。皆様お一人お一人に改めて感謝申し上げます。日本でこのように素晴らしい旅路を用意してくださり本当にありがとうございました。